お風呂場のカランから滴がひとつ落ちて、それを合図に舞台の緞帳が上がる。
第一幕、僕は厨房で忙しなく動いている。
大きな寸胴鍋に煮立つスープを、片手鍋ですくいとり準備してあった小鉢に取り分ける。キッチンタイマーのアラームを止めながら、ゆで鍋から麺の入ったザルを取り上げ、素早く湯切りをし、スープをこぼさないように小鉢に麺を落としこむ。菜箸で麺を軽く整えながら、具材を盛り付け、カウンター越しにホールのウェイトレスに声をかける。
二つ目の滴で第二幕。
僕はフォークリフトでパレットに積み上がった空の一斗缶を運んでいる。
里山に囲まれた工場の建家の中に入ると、有機溶剤の臭いが強くなり、換気音が一段と大きくなる。一斗缶の山越に年輩の工員が手を挙げて、ここに下ろせと合図をしている。
僕は鷹揚と樹脂のこびりついたレバーとハンドルを操作し、溶剤と樹脂が渦巻いているタンクの前にパレットを下ろす。
三つ目の滴が呼び出したのは僕の祖父。
実家の居間で火鉢にかざし手を揉んでいる。僕と同じ笑顔を浮かべる表情は温厚そのもので、狂気は感じられない。どてらの袖口から、僕が形見にもらったTechnosが覗く。そのTechnosに気をとられ、祖父が言ったことを聞き逃す。
もう一度言うように促したとき、次女の寝返りで幕引き。
冷たくて明るい青空に冬枯れの田畑が余韻となった。
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