金曜晩の仕事の充足感を帰宅前に受信した幾つかのメールで打ち砕かれ、トリスをあおってふて寝でもしようかと寝支度を整えていると、FBでチームメイトが早朝雲海を見に行くライドのポストをしているのが目に留まる。あぁ、今年もその時期か。集合時間と場所からして、往復同行は難しい、なら峠の麓で合流して峠だけご一緒させてもらおうか、などと考える。そのポストに「峠の麓(車番)があれば私です。」などとどうとでも取れるレスをつけて出発の準備を整える。寝坊を防ぐため深夜に自宅を出発、未明から早朝にかけておにゅう峠の麓(滋賀側)で一晩明かす計画。
木立が途切れた道路脇の空き地は、疎らに灯るLEDが電柱の陰になり、無住かどうかわからない家屋との位置も程よく、具合の良いポイントで、意外に早く泊地を見つけられたと安堵し、エンジンを止めると耳鳴りがする静けさと墨を垂らしたような車窓を覆う闇。
集合場所と時間から計算して3時間ほどは寝られるかなと思いながら、道中の外気温の表示にはそぐわないウェアのこと、登って降りてその後の帰宅に要する時間を考慮したら雲海を見られないことがことさら意識され、落ち合えたらコーヒーを飲んでもらって即帰宅だな、とシュラフに潜り込み、いい体勢を探ってもぞもぞしていると瞼が重くなってくる。
霧が立ち込め、下がり始めた車内の温度をシュラフ越しに感じ、ウェアのセレクトは全然だめだったことを痛感する。少し体勢を動かすと霧の向こうから外灯がぼんやりと目を差し、トワイライトゾーンを連想する。
と、気配というか闇への恐怖の具現化というか、何かを感じたような気がして、夢か現かわかないまま口が動き、「ぼぼぼ」だか「うごご」だか声にならないような声を発したような気がする。何かは黒っぽく感じて、それは瞼だったかもしれないし何か野生の動物だったかもしれない。
明確に夢の中のことと記憶しているのはこれ以降のことで、その傍にあった無住の家屋に闖入し、猿や猪、鹿や熊の気味の悪い木彫りの像に驚かされる。
慣れない姿勢に眠りが浅く夢から覚めたことを自覚して時計に目をやると2時半過ぎ、1時間ほど眠ったのかと車外の様子を伺うと、眠る前に感じた何かがどこか霧消したように思う。それまでなんとなく潜めていていた息を大きく吸い込み吐き出し、その後5時前まで眠った。
5時過ぎ、まだ真っ暗な来た道を引き返し始めると件のチームメイトに遭遇、コーヒーを一杯飲んでもらい、同行できない理由を伝えて帰宅したわけでした。